the old man and the sea

海と老人

Emerald Blue Sea

ある海に近い小さな村のお話。

 

いつものように真っ青な海に向かってひとりの老人が釣竿を下げている。

 

 

村の若者は都会に出稼ぎにでており、からっぽの村。

村には老いた人たちと子どもたちしかいない。

 

『わしは真っ青な海で釣れる、真っ赤な魚が大好きなんじゃ』

 

 

海辺で、その老人はいつも一人でこうつぶやいていた。

 

来る日も来る日も、彼は朝から晩まで、

ときたまひっかかる真っ赤な魚を思い浮かべながら、

今日も釣り糸をたらしているのであった。

 

The Old Man and the Sea

 

ある日、バカンスを楽しみに来たビジネスマン風の男と女のカップルがやってきた。

 

彼らは老人の近くまできて、不思議そうに老人を見つめる。

 

 

老人は気にも留めずにいつもどおり目を細めながら遠くの海を眺めていた。

 

 

ふと、釣竿の先がクイッ、クイッと動き出す。

 

老人はついに来たかといわんばかりに、リールをめいいっぱいに巻く。

 

男と女のカップルはその姿をじっと眺めていた。

 

『やった!やったぞ!』

 

老人がリールを巻ききったその先には、

 

青い海に赤く輝く小柄な魚が食いついていた。

 

その赤い魚は潤ったひれをぴたぴた動かしている。

 

老人はまるで少年かのような澄んだまなざしで魚を覗き込んでいる。

 

 

 

『ブラボー』

ビジネスマン風の男が老人に語りかける。

 

そして、釣った魚を覗き込むと、

 

なんとそれは都会では最高級の料亭でもなかなかお目にかかれない最高級魚だったのだ。

 

 

『おじいさん、よかったですね』

男が語りかける。

 

『この魚、売ったらすごい値段がつきますよ!』

 

 

2、3秒ほどの沈黙があった。

 

『わしは真っ青な海で釣れる、真っ赤な魚が大好きなんじゃ』

 

老人はそう言って、ぴたぴた動いている真っ赤な魚の釣り針をはずし、

 

海へと返してしまった。

 

 

『ああ、なんてもったいない。』

男はつぶやいた。

『この村ならあの魚1匹売るだけで4人家族1か月分のお金が手に入るのに』

 

 

男はさらに続ける。

『実はわたしは流通業と加工工場を経営しているんです。

今日はバカンスで来ましたがこの地域で最高級魚が取れるなんて知らなかった。

この魚をたくさん水揚げしたらどうですか?』

 

 

老人はたずねた。

『たくさん水揚げしてどうするんだい?』

 

男は答えた

『安定的に水揚げできれば、ほかの地域でとても高い値段で取引することができます。』

 

老人はたずねた。

『売ってどうするんだい?』

 

男は答えた。

『この村の名物にできるし、おじいさんも有名になれますよ。きっと村のみなさんや子供たちも喜ぶはずです。地域で協力して、村おこしをしませんか?』

 

老人は答えた。

『村おこしをして、どうするんだい?』

 

男は答えた。

『村おこしをして、人がたくさん集まるようになれば、この村の観光産業も発展して、村に若者たちが戻ってくると思いますよ。おじいさんもお金に余裕ができるし、そのお金で好きなことができると思います。』

 

 

 

老人は答えた。

『好きなこと?』

 

『わしは真っ青な海で釣れる、真っ赤な魚が大好きなんじゃ』

 

 

男は両手を上に掲げて、なにを言っているんだこの人は?というあきれた表情だ。

『そろそろ行きましょうよ』

そう女に諭され、男と女はその場を去っていった。

 

 

 

 

男と女が去った後も、変わらず、

老人は釣り糸をたらして、なにかが来るのを待っている。

 

 

 

 

 

別のある日、近所の男の子が1人、とぼとぼと歩いてきた。

 

老人はいつもどおり、男の子のことなど気にも留めず、目を細めながら遠くの海を眺めていた。

 

 

ふと、釣竿の先がクイッ、クイッと動き出す。

 

 

老人はついに来たかといわんばかりに、リールをめいいっぱいに巻く。

 

 

少年はその姿をじっと眺めていた。

 

 

『やった!やったぞ!』

 

 

老人がリールを巻ききったその先には、青い海に赤く輝く小柄な魚が食いついていた。

 

 

その赤い魚は潤ったひれをぴたぴた動かしている。

 

老人はまるで少年かのような澄んだまなざしで魚を覗き込んでいる。

 

 

『ねえねえおじいさん』

 

さきほどの小さな男の子が老人の背中をたたく。

 

『何してるの?』

 

男の子がたずねると、老人はむすっと黙って手元を見つめている。

 

男の子はおじいさんの隣に回りこんで、視線の先を追った。

 

『ふぁ~!!!!』

 

 

 

真っ青な海に、真っ赤に輝く小さな赤い魚がぴたぴたとひれを動かしていた。

 

小さな男の子は、はじめて見た本物の生きている魚に目を輝かせている。

 

 

『かわいいね』

 

男の子は目をきらきらさせながらそういった。

 

『そうだろう』

 

老人は答えた。

 

『わしは真っ青な海で釣れる、真っ赤な魚が大好きなんじゃ』

 

 

 

 

次の日、小さな男の子は村の友達を1人連れてきた。

 

 

『ねえねえ、あそこだよ!』

 

ふと、釣竿の先がクイッ、クイッと動き出す。

 

老人はついに来たかといわんばかりに、リールをめいいっぱいに巻く。

 

『やった!やったぞ!』

 

老人がリールを巻ききったその先には、青い海に赤く輝く小柄な魚が食いつく。

その赤い魚は潤ったひれをぴたぴた動かす。

 

『うわ~!!!!!おさかなさんだ!』

 

男の子2人は食い入るようなまなざしで魚を覗き込んでいる。

 

 

『ぼくも釣りたい!』

 

1人がそう言い出した。

 

 

『ぼくも!』

もう1人も呼応する

 

 

次の日、おじいさんをはさんで、小さな背中が2つ、ならんでいた。

 

 

今日も老人は、目を細めながら遠くの海を眺める。

 

 

何日かが過ぎていった。

ちいさな背中は、3つ、4つ、5つ、6つ。

 

気がつくと老人の周りには10人の子どもの背中があった。

 

それぞれが海の奥を細い目で見つめながら、何かを待っている。

 

 

 

ふと、1人の男の子がつぶやいた。

 

『ぼくたちみんなで釣っていたら、おさかなさん、いなくなっちゃうかな?』

 

老人は眉をしかめて黙っている。

 

 

『そんなのいやだ!』

別の男の子がそう答える。

 

 

 

 

『ぼく、お魚育てる!』

別の男の子がたちあがって、どこかへ走り出していった。

 

 

 

 

 

 

 

そして10年の月日が流れた。

老人は今日も釣り糸をたらして座っている。

 

 

子どもたちによって作られた、『お魚さんの庭』はいつのまにか大きな養殖施設になり、

その村は最高級魚の生産地として名をとどろかせるようになった。

 

 

施設を運営しているのは小さな背中をならべていたあの子どもたち。

近くに施設ができたものの、

老人がいつもすわる、釣り場所は、古めかしく残されている。

 

そして、大きくなった子どもたちはたまに老人のところに遊びに来る。

 

 

 

『わしは真っ青な海で釣れる、真っ赤な魚が大好きなんじゃ』

 

 

 

老人は今日も目を細めながら遠くの海を眺めている。